- takagoto0
君は悲しい
更新日:2020年10月25日
君は塀
君は年老いた塀
小さな田舎町にある家の塀
その家で僕は生まれ育った

戦争のころは5家族が住んでいた家
君は家を護った
君は家族を守った
今日もいつものように子供たちが君の前を通って学校に通う
彼等の笑顔とはじける元気は昔からちっとも変わってない
でも人数はずっと減った
君は子供たちを護ってきた
だってきみは優しくて暖かい心の持ち主だから
でも君は悲しい
皆が君は危険だって言ってるから
君は危険なんかじゃない
だってきみは優しくて暖かい心の持ち主だから
君は皆を守ってきた
君は誰も傷つけてない
でも皆は言う 君の仲間の一人が遠くの町で子供を傷つけたって
僕にはわかる 君が言いたいのが
あれは彼のせいじゃないって
でも君は黙っている
君は危険な塀
皆が言っている
僕は君を壊さなければならない
僕は知っている 君が悲しんでいることが
でも君は黙っている
僕は知っている 君が賢くて暖かい心の持ち主であることを
僕を許して欲しい 君を壊さなければならない僕を
多くの時が流れた
戦争は終わった
家族は町に帰った
残ったのは僕の家族だけ
もうひとつの時が過ぎた
僕と弟は町に出て行った
残ったのは僕の父と母
やがて父が死に
そして母も
残ったのは誰もいない 年老いた塀以外は
そして家の新しいご主人がやってくる
君にはわかっている
自分の役目が終わったことを
新しい家族を守るのは新しい塀でなければならないことを
賢い君にはわかっている
君は賢い塀
君は悲しい塀
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